What is “TACARE” ?
ジェーン・グドール・インスティテュート(Jane Goodall Institute,以下JGI)がアフリカ各地で行っている森林再生プロジェクト,それがTACARE(タカリ・ the Lake TAnganyika CAtchment Reforestation and Educationの略)です。
このTACAREプロジェクトは,
・ チンパンジーの生息環境の保全 と
・ 地域住民の生活水準の向上 の2つを目的として,1994年にタンザニアのゴンベ国立公園に隣接する村落でスタートしました。
よくTACAREは,”community-centered conservation(地域主導型 保護活動)”という言葉で説明されています。
つまり,あわれんで「施す」のではなく,その地域で暮らす住民自身が主体となって自分たちをとりまく環境を良くしようとする動きを「育む」ことに活動の主眼をおく,この点がこのプロジェクトの特長だといえるのです。
はじまり
かつては国立公園だけでなくその周辺全体にうっそうとした森林がひろがっていたのです。
しかし,コンゴ民主共和国とブルンジから近年大量に難民が流入し人口が急増した結果,より多くの材木が必要となり木々が成長するのよりもはるかに上回るレベルで森林伐採が進み,ゴンベ国立公園のみを残して緑はあっという間に姿を消してしまったのです。
周囲と隔絶されたゴンベ国立公園に住むチンパンジーたちにとって,他の集団と行き来ができない状態がこのまま続くことは,群れの消滅を意味しています。
しかし,生活のために材木が必要な人たちに,木を刈らない生活をただ強いたところで何になるというのでしょう。
苦境に立たされたJGIスタッフは悩みます,
どうにかして両者の共存はできないものだろうかと。
こうして,TACAREという形で両者の共存実現を模索するJGIの試みが始まったのです。
人が変わる,村が変わる,そして森が変わる。
まず,TACAREのスタッフは,苗木の育てかた,植えるときのコツ,さらには植物由来の肥料・農薬の使い方といった,林業のありとあらゆるノウハウを村人たちに広めました。
またノウハウの伝授は,森林再生に直結する生育の早い樹木のみならず,ヤシの木(ヤシ油がとれます),コーヒーの木,マッシュルームなどの現金収入に結びつく作物の育て方にまで及びました。
一方で,村人の生活水準の向上にも多くの情熱が注がれました。
まずは,未来を担う子どもたちへの教育に重点がおかれました。
優秀だが学校に通うお金がない女児のために奨学生制度を設けることで,就学そして社会進出のチャンスを女の子にも与えました。
と同時に村の若者たちをゴンベ国立公園に招待し,自分たちの家のすぐそばに貴重なフィールドがあり,そこからジェーン・グドール博士の世界的に有名な研究成果が生まれたことを学んでもらいました。
また,保健衛生に関する情報の普及活動もさかんに行われました。
AIDS/HIVについて脅威と感染予防策を伝える啓蒙活動を展開しました。
また,爆発的な人口増加の勢いを和らげるため,各家庭の人生設計にもとづいて産児数の計画ならびに避妊を行うことを推奨し,そのためのカウンセリング窓口を設けました。
このほかにも,帳簿のつけ方といった資産の管理方法についての講習会を催したり,土壌の侵食によって土砂崩れが起こるのを予防するためVetiveriaを植えることを呼びかけたりと実に様々な分野での情報提供が行われました。
情報提供と並行して,インフラの整備・復興にも力が注がれました。
公衆衛生の面では,用水設備を整備しなおして衛生的な水の提供を可能にしました。
また,診療所や学校の復興,変わったところでは,従来の半分以下(40%)の量の薪しか使わないで調理ができる省エネ型のかまどの導入が行われました。
現在
開始から10年目を迎えた現在,これらの努力が大きな実を結びつつあります。
植林事業
プロジェクトの対象となった32の村落であわせて80の養樹園がつくられ,そこで240万本の苗木が育ちました。これまでに植樹された木の本数は合計でなんと75万本にものぼります。また,この一連の事業は今では全て現地の村人たちによって運営されており,今日もまた新たな木が植え続けられています。
そのたゆまぬ努力の甲斐もあって,もとからあった木を切らずとも植林分のみで全ての住民が使う量の薪をおおかた調達できるようになりました。このことによって,かつてのはげ山は再生する余裕を取り戻し,茶色の荒地でも新芽が芽吹くさまが見られるようになりました。
TACAREプロジェクトによってたくさんの新しい林が生まれ,そのうちの60箇所は村の掟で伐採を禁じた保安林となりました。保安林では,村人らで結成された消防団による防火の見回りが行われています。その一方,ハーブ栽培・養蜂といった,木の生育の妨げにならない林の有効利用が奨励されています。
奨学生制度では,これまでに112人(2004年5月の時点で)の女児が高等教育を受けるチャンスを得,修業後は法律・経理などのさまざまな分野へ羽ばたいていきました。
人口爆発に関する知識の伝播に従い,家族計画・避妊への意識も高まりをみせ,これまでにのべ1万人以上の男女がカウンセリングを受けました。講習を受けカウンセリング窓口のスタッフとなった80名の村人たちがその対応にあたっています。
省エネ型のかまどの導入は,主婦の生活サイクルにも変化をもたらしました。
集めなくてはならない薪の量が半減したことによって,女性が自分たちの仕事とされている薪拾いに費やす時間は激減しました。彼女たちは,こうして生まれた余暇を自己啓発のための時間として有効利用しているようです。
ひろがり
TACAREが作った新しい林が架け橋となって,国立公園に住むチンパンジーたちと北に離散していた別の小さな群れとの行き来できるようになる日が来ることを願いながら,今日もまたTACAREプロジェクトは活動を続けています。